「コールサック」日本・韓国・アジア・世界の詩人

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岡田 忠昭 (おかだ ただあき)


<経歴>


1947年、愛知県生まれ、名古屋市在住。

詩集『忘れない―原発詩篇増補三版』

小詩集『原発詩篇』

詩人会議、愛知詩人会議、各会員。


<詩作品>


夕陽の中へ


今日の夕陽は美しい
太陽光線が大量の微粒子を通り抜け赤く輝いている
死を前にした母と ホスピス病棟で見た夕陽のように赤く美しい


  絶えず小さな注意音が鳴っている中央制御室に
  突然 大音量の緊急地震警報が鳴り響く
  係員は訓練通り 素早く運転停止ボタンを押した


めずらしく家族がそろった昨日の夕食 息子は上司の無理解を憤り
娘は生徒のわがままを嘆き 夫は市長の専制ぶりを非難した


  
  一斉にモーターが動き出し 二百数十本の制御棒が
  下方から 炉心部にゆっくり挿入されていく


朝食を済ますと洗濯機をかけ 夫を最寄り駅まで送る
帰宅して洗濯物を干している間に 息子と娘は出勤していく
風呂を洗い 流しを片づけ 居間のソファーで新聞を広げる


  その時突然 突き上げるような揺れが来た
  原子炉建屋全体が大きく揺れ
  制御棒は大音響をあげて次々に落下した


コーヒーを飲みながら新聞を読み始めた時 揺れが来た
新聞にコーヒーが飛び散り 家が軋み 棚から落ちた食器の割れる 音がする
逃げ出そうとしたが立つことができず ソファーにしがみつくだけ だった


  中央制御室では机上の書類や文具が散乱し 椅子が床を走り回   る
  職員たちは椅子をよけながら床にはいつくばるしかなかった
  炉心部では核燃料が連鎖的に核分裂を始めた
  猛烈な熱と大量の放射能を出しながら


テレビは静岡県西部沿岸地方の壊滅的な様子を放送している
政府は緊急事態宣言を出したが 効果的な対策は何も取れなかった


  軽傷ですんだ職員が自家発電装置を何とか動かし 炉心を冷や   そうとした
  だが 給水管が破断し 炉心部に冷却水を注入することができ   ない
  地面のあちこちに亀裂が入り 土砂が崩れ 道路はほとんど通   れない
  それでも逃げ出そうとする人と車で どこもかしこも身動きで   きない


午後になると 原子力発電所が燃えている映像がテレビに映し出さ れた
家族とはまだ 誰とも 連絡が取れない


傷つきながら 徒歩で帰ってきた家族とともに 荷物をまとめる
強い放射能を含んだ塵が 風に乗って迫っている
赤く 美しく輝く 夕陽の中へ
家族そろって 歩き出す



揺れる春



それでも季節は巡り
新緑をもれる陽光
タンポポは連れ去られ
手折られた若枝
軽視が跳びまわって
野茨に絡まる
降り積もった静寂
逆さに飛ぶテントウムシ
午後の春風
人災を溶かして湧水流れ
畦の芹菜にきらめく毒水
抜け落ちた軸足
オタマジャクシのダンス
欲望は飛び散り
ヤゴは秘かに命を喰む
田の土は水を得て
黒々としたたり
計測器の怒りの数字
だから「ダメだ!」と
言ったんだ
散りぢりのクモの子
震えあがるモンシロチョウ
噓にまみれ
乱れる菜の花に
メルトダウンする
俺の夕陽


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